No.206 外に向かえ外に
若いころからの習慣で僕は今もBarを覗く。新しいネオンの電飾にまだ出来て二年は経ってないみたいだ。そうして昔ながらに飛び込んで頭を掻いて過ごすけれど、だいたい僕は失望する。こういうのんじゃなかったのになと。
常連客がやってくる。常連でございと手を挙げてまるで出入りの業者みたいに場違いにでだ。まるで友だちに会ったみたいで誰々がサと知らぬ話をする。こんなんじゃなかったのにって僕はこっそり店を出る。
僕もいくつかの店で常連だった。常連はいつもこそこそしてた。住み着いて立場が狭いみたいに、Barの空気が汚れないように。
夜中に酒場に行ってさ、友だちに会いに行くなんて寂しいことだ。友だちなら友だちと会え、カウンターの奥にいる、友人の挑戦をさまたげるな。友人は次々開くドアに、未知なる者と向き合おうとする。友人の挑戦をさまたげるな、友だちに会いたきゃ家で会え。
常連なんて隅っこにいる。隅っこでBarを眺めて遊ぶ。次第に他人同士が融け合って行く。友人ではない時間を過ごすんだろう。
演劇部の集団があり、そこに客員として他人が入る。となりの大学の部員みたいだ。自ら招いて交歓した。けれども部活の休憩で、あるいは本番のアガリにも、彼らは他人と向き合わず、慣れた友だちどもと談笑する。
なんのために舞台に立つんだっけ。なんのため客に見せるんだっけ。みんな自分の居場所を、友だちと大切にしているつもり。
でもそれは違ったろう。外に向けての挑戦だった。次々に開くドアがあり、彼らは未知なるに向き合おうとする。帰れば友達に会えるんだ、だから外では何ができるか試す。
外に向かえ外に。挨拶は、態度は、準備したか。みっともないこと残してないか。服装なんてどうでもいい、そんなのは自分を守る鎧だ。
友だちは大切にしたらいい、でも仲間内でだらだら遊んでさ、そこで何か燃やせるわけじゃなし、安住が嫌いと言ったくせに。
手放しで外に出よう。閉じこもってないで甘えていないで。あなたをよく知る人は誰もおらず、あなたはみじめでちっぽけで自由だ。
名も無い馬の骨どうし、まぐれみたいに心が触れて、素敵な時間をやられてしまった、そう認めたとき手を差し出せ。
[了]