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3.90年代の神秘主義を背景として
90年代は神秘主義の時代だった。そのことは、当時を知らない若年層には直接察しえない。
また、当時を思春期として過ごした人にとっても、それ以前の時代との接続が視えず、どんな由縁あっての神秘主義なのか不明だろう。
古くさかのぼって15世紀からの大航海時代があったとして、そこから何百年も人類は「帝国主義」を生きた。帝国主義は第二次世界大戦、核兵器の登場によって終焉した。核兵器が登場することによって、いわゆる「抑止」、戦争が「できない」という新しい状況が発生した。戦争ができないのでは、帝国は帝国たる活動ができない。つまり1950年代、人類は帝国主義を脱却して資本主義へ移行した。資本主義は露骨な貧富の格差をもたらし、これに対する反発が「共産主義」の台頭をもたらした。いわゆる米ソの東西冷戦、その代理戦争、日本における「学生闘争」などがこの時代だ、1960年代から1970年代は共産主義に夢をかけた。しかしこのことは、ソヴィエトによる突然のアフガン侵攻で墜落する。共産主義は資本主義との徹底した差別化で成り立っていたところ、共産勢力は何ら平和勢力でなく、資本主義と同じ「侵略」をするのだということを、親玉のソヴィエトがやってしまったからだ。このことで共産革命に向けた運動家は肩身がいきなり狭くなった。そしてソヴィエト連邦が「崩壊」すると、社会科の教師まで首をかしげて「国がなくなるってどういうことなんだろうね」となり、共産主義はその夢を絶たれた。共産活動家は、いなくなるか、その一部は地下に潜伏していった。
共産主義に夢をかけていたものが断たれて、次に人びとは何に夢をかけたか。それが神秘主義だった。超能力者や心霊写真、占い師などが時代の脚光を浴びた。もちろん半信半疑なところはあったけれど、それは半分ぐらい信じ込んでいたという状態だった。
この神秘主義は、日本の場合、オウム真理教による地下鉄サリン事件で大量の冷や水を浴びせられることになり、一斉に「神秘主義はやめておこう」ということになった。
われわれが「エヴァ」を捉えるとき、このように捉えておくとわかりやすい、
「オウム真理教は引っかかってつぶれたけれど、エヴァはすりぬけて生き残った」
これはもちろん宗教やテロル思想に結び付けての捉え方ではない。当時の神秘主義という括りにおいての捉え方だ。80年代の恋愛は情熱的なものでなくてはならなかったが、90年代の恋愛は神秘的なものでなくてはならなかった。当時その神秘的なものにまみえることができそうにないと感じていた人は、一部はヨガや超能力に傾倒して、さらに一部は危険な宗教に取り込まれていった。
そして別の一派は、「エヴァ」に取り込まれていったということになる。男性ファンが綾波やアスカに向ける恋心は90年代の神秘主義的恋愛だと言える(同様の神秘主義的恋愛はそれ以降さまざまなオタク方面、たとえばギャルゲーと呼ばれる方面などで多数出現する)。
神秘主義以前の、たとえば共産主義者にこのことを言わせれば、彼らの文脈ではこうなるだろう、
「なるほどそうやって、エヴァというやつにオルグされていったのね」
あるいはこのように捉えるとよい、
「共産主義が失墜したあとも労働組合は残されたように、神秘主義が失墜したあともパトス信仰は残された」
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