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11.無上の射精1/蓄積されたパトス
何の感情もなく射精することは、きっとこの作り手にとって「快感の低い」ものに違いない。
逆に、「強い感情であれば何でもいい」、激しい感情があればそのときの射精はとにかく気持ちいいんだ、という一種の確信のようなものが、この「エヴァ」からはにじみ出ている。
女子中学生の肢体にパトスが昂じる。
それが同級生ということにパトスが昂じる。
女性の下着姿や、セミヌード、またその窃視にパトスが昂じる。
女性の身体のライン、尻や股間、胸などにパトスが昂じる。またそれを浮き立たせるスーツにパトスが昂じる。
一つ屋根の下で同棲という環境にパトスが昂じる。
巨大なロボットの「力」を振り回すのは、それじたいにパトスが昂じる。
激しく弾丸が飛び交い、騒音と振動がするのは、それじたいにパトスが昂じる。
エースパイロットという地位と承認欲求にパトスが昂じる。
人類補完計画等、語彙をフレーバーとして吸うとパトスが昂じる。
おっかない敵と脅威に対しては、それを恐怖するというパトスが昂じる。
いやだよ、いやだよ、やりたくないよ、といやがることじたいにパトスが昂じる。
父親や同僚を恨んだり、呪ったり、憎悪・ヘイトすることにもパトスが昂じる。
痛みや苦しみにギャーと否定的な叫びを発するのはパトスが昂じる。
大声を出すことじたいにパトスが昂じる。
パトスで顔面をひきつらせることじたいにパトスが昂じる。
自己否定にもパトスは昂じるし、自分がチヤホヤされることにもパトスが昂じる。
馬鹿にされることや、自分が否定されることにパトスが昂じる。
こうして可能な限りのパトスを十四歳の碇シンジのペニスに積ませ、綾波でもアスカでもミサトでもマリでもいいので「ドピュッ」としたら、「それは狂おしいほど気持ちいいはずだ」と作り手は追求している。
当時の男性ファンはこれをおおいに「オカズ」にしていたはずだ。「エヴァ」という全体に興味があろうがなかろうが、強力なオカズの引力においてこれを「観ずにはいられない」と引き込まれるところがあったはず。
90年代の、ある種の切なさのムードの中で、神話へのあこがれも含めて恋人の幻想に懸けた人も少なくないとは思うが、それはそれとしても、背後にこのように「ペニスにパトスを積む」という制作意図があったことを今さらではあるが確認しなくてはならない。「強い感情であれば何でもいい」「激しい感情があればそのときの射精はとにかく気持ちいいんだ」。
「シンジ君」のペニスにパトスが積まれるのと同調して、視聴者男性のペニスにもパトスが積まれていった。ここまできて逆に綾波やアスカを「オカズ」にしたことがないという男性ファンはありえただろうか。
そしてそのことは、ファンたちが「エヴァ」を互いに "神話" のごときに言い合って色めいたことと、当然の矛盾をしているのではないだろうか。
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