恋愛相談のコラム









フラれかたの5段階カテゴリー







台風が、ずいぶん冷たい空気を連れてきた。もう真夜中、窓を開けて遠い風鳴りを聴きながら、久しぶりの長袖を着てその風を浴びていると、体よりもむしろ心の内奥がひんやりとしてくる。誰でもそうだと思うが、季節の変わり目、その瞬間の空気の匂いをかぐと、子供じみて切ない気分になるものだ。そしてそのようなとき、思いがけず古い記憶が自分の中から呼び起こされたりもする。僕の場合、みっともない失恋の記憶が次々と再生されてきたりするわけだが、それはそれだけ僕が失恋ばかりをたくさんしてきたからだろうか。

点けっぱなしのテレビが、アメリカに上陸したハリケーン「リタ」についての現地レポートをがなりたてている。リタは当地の言い方でいうところの、「カテゴリー3」の台風らしい。台風の強さをカテゴライズするのはいかにも西洋的だなと僕は感じながら、ふとこのようなことを考えもした。―――僕はたくさんの失恋をしてきて、そのフラれかたは様々だったが、そのフラれかたをカテゴライズすることはできるだろうか?

僕たちの恋愛の悩みは、その大半が、自分としての接近を相手に拒絶されること、要するにフラれることにある。僕たちは好きになった人に、メールアドレスを聞き、デートに誘う、そして交際を申し込んだり、ベッドに誘ったりする。それが相手によって拒絶されることを、僕達は一般に「フラれる」と表現するのだが、僕たちはつねにこの「フラれる」ことについて思い悩むし、また「フラれる可能性」の段階でも思い悩む。僕たちをそのように思い悩ませるものであれば、それを理性的に考えるために、カテゴライズして捉えるのも有効かもしれない。僕はそう思い立って、フラれかたのカテゴリーを考えてみることにした。

(フラれた経験は、自慢できるぐらいあるからね)


***


「ごめん、やっぱりその気になれないから」
「ごめん、やっぱり君のことをそういう対象として見られないから」
「ごめん、俺やっぱり好きな人がいるから」

あなたが彼にフラれるとき、たいていはこういう文句によってフラれる。あるいは、このように言葉としては表現されず、疎遠さを感じさせる態度の表現によってフラれることもあるかもしれないけれども、まあそれを含めてもフラれるときの表象のやりとりというのは定型的なものだ。そして誰もがご存知のとおり、この手の表現はかなり儀礼的にパターン化されたものであって、内心がいかようであっても、相手としてあなたをフるときは、この定型から逸脱することはあまりない。フる・フラれるというとき、言葉も態度も極めて定型的なのだ。

ここで僕として思うに、フる・フラれるという時、ひとつの未解決というべきものがフラれる側に発生するのではないだろうか。それはすなわち、フラれる側にとってみれば、なぜフラれたのか、どのような理由でフラれたのか、そこを明確に知ることはできないという点である。僕自身のことを思い出してみても、たとえば「ごめんなさい、わたし好きな人がいるから」という文句でフラれたことがやはりあるが、それは本当の理由を正確に描写している文句ではない―――もし好きな人が消えてなくなったとしても、僕と付き合ってはくれないだろうと感じ取られた―――のだから、本当のところの理由は隠蔽されたままになっている。これは言ってみれば、就職試験の不採用通知と同じであろう。不採用通知には、「残念ながらご縁がありませんでした」というような文言だけが添えられるもので、まず「アタマ悪そうだったので不採用」というようにハッキリ通知してくるものではない。

僕たちはフラれたとき、なぜフラれたのかという理由の本当のところを知ることができない。これはひとつのルールみたいなものなので、しょうがないことだ。しかし、フラれたことから自分として反省する、そして自分を改め磨きなおしていくというとき、自分がフラれた本当の理由がわからないままというのはいささか不都合なことでもある。であれば僕たちは、相手の定型的な表現に惑わされず、自分としてその理由を考え突き止めていかなくてはならないだろう。

さてでは、あなたがフラれた理由、あるいはフラれつつある理由、その本当のところはどこにあるのだろう。そのことを考えていく上で、カテゴライズを持ち込むのはやはり有効かもしれないと僕は思うのだ。


***


僕として考えるところの、フラれる理由のカテゴリーを、五段階として書き述べていく。


カテゴリー1 「敬遠」
[理由:関わっていて不快である、気疲れする]

このような理由によってフラれることは、もちろん実際にある。いかにもありそうなケースでいえば、例えば相手の彼がこのように感じている場合。

「好きになってくれるのはありがたいことなんだけど、何かテンパってて会話にならないし、アピろうと焦るあまりか、自分のことばかり話すし、そういうのってこっちは気疲れするよな・・・。メール返し忘れるとずっと根に持ってるみたいだし、あと、その年齢でその言葉遣いはどうなの、って思うところもあるしなぁ」


カテゴリー2 「退屈」
[理由:関わっていて不快ではないけれども、かといって愉快でもない]

これは例えば、彼としてこのように感じている場合。

「○○ちゃんとは、確か先月のいつかに一回だけデートしたけど、具体的に何をしたかはちょっと覚えてないなあ。午前中から会って、午後からは何か話題が尽きがちで間を持て余したような、そういう記憶がある。もう一回デートに誘われたら、うーん、ちょっとその気になれないだろうな」


カテゴリー3 「安穏」
[理由:関わっていて愉快ではあるが、尊敬する部分は見当たらない]

「尊敬」という言葉を使うといくらか違和感があるけれども、相手に恋愛感情を抱くとき、その恋愛感情は何かしらのリスペクトを含んでいるものである。従い、リスペクトがないと、その関係は安穏とした友好関係に留まってしまう。

「あのコ、面白いコだよなぁ。これから飲み会とかするようになったら、絶対あのコは人気者になるよ。ってもあのコ、受験とか将来のこととか、どうするつもりなんだろうな?あたしバカだからって、そう言って笑ってても許されるキャラだけど、いつまでもそのままでいいってわけじゃないと思うけどな。メールの書き方とか、いろいろとコドモっぽいところもあるし。まあそれも、あのコのキャラといえばキャラなんだけど・・・」


カテゴリー4 「清廉」
[理由:関わっていて尊敬できるが、ときめきは生まれない]

「○○ちゃんは、すごいよくやってるよな。バイトも長いこと続けてるし、発表会に向けてダンスもすごい練習してるし。俺も負けてられないから、マジメにやらないとな。いろいろとあったけど、俺もいつまでも腐ってても、しょうがないし・・・。にしても、○○ちゃんは、落ち込んで一人で泣いたりすることとかあるのかな?なんか、そういうことがまったく無いぐらい、明るくて強そうに見えるけど」

人間には長所と短所があるが、概してときめきというのは長所からは生まれないものである。一見して、長所によって生まれたときめきがあるように思われても、それは長所と短所のバランス、その機微によって生まれているのが実際のところである。例えば、外見も性格もクールな彼が、実は俺、けっこう方向音痴なんだよと、あなたに向けて恥ずかしそうに笑った場合など・・・。

あなたとして長所だけを彼に見せていたとしても、相手としては爽やかな気分になるだけで、それは恋愛感情へとは発展しにくい。長所も短所も含めたあなたの全体性が晒されたときのみ、相手の心にはときめきが生まれうるのだ。


カテゴリー5 「不安」
[理由:関わっていてときめきはあるが、うまくやっていけるかどうか不安である]

「気がつけば、最近あのコのことばかり考えてるなあ。感受性が強くて、泣き虫で、でも真面目に健気にやってる、すごいコだと思う。でもどうだろう、やっぱり俺とはあわないところが多すぎるかもしれない。あのコは洋楽ばかり聴いてて、それも惚れこんで聴いてるみたいだから、カラオケ目当てでJ−popばかり聴いてる俺とは感性が違いそうだし、あと、元カレとのエピソードを聞く分には、エッチもあまり好きじゃなさそうだし・・・。もし付き合ったとしても、揉め事ばかりになるかもなぁ」

実際に付き合うかどうかという段階では、このようなことも思慮の焦点になってくるだろう。


・・・以上、5段階のカテゴリーを示してみた。もちろん恋愛には無限のパターンがあるわけで、その全てをこれで網羅できるわけではないけれども、あなたとしてあなたの恋愛を考え進める上で、何かしらの指標になればいいと思う。


***


さて、あなたが彼にフラれた、あるいはフラれつつあるとして、そのフラれかたはどのカテゴリーに該当するだろうか。そこを正しく見切れるかどうかによって、あなたの反省と改善、そしてこれからの再攻勢が、有効になるか的外れになるかが決まってくるはずである。例えば、彼があなたに疎遠な態度を示しているとして、それがあなたの過剰なプッシュによる、彼の気疲れに原因するものだと見切られれば、それはカテゴリー1の「敬遠」であるから、当然あなたはそこを改善しようと考え進めることができるはずだ。逆に言うと、ここの見切りが外れると、目も当てられないことになる。例えば、彼としてはカテゴリー3の「安穏」、関わっていて愉快だけど、それ以上ではないという心境のところで、あなたが「前回のデートはマジトーク入っちゃって、なんかしんみりしちゃったから、次はもっと楽しいデートにしよう」と考えたら、その努力はマイナスに働いてしまうだろう。このあたり、あなたとして頭と心を冷やされて、また友達に相談などされて、じっくり考えられればいいだろう。そして、闇雲に悩まれるよりは、5つの中から1つを選ぶ、選択問題とするほうが考えもまとまるかと僕として思うところ。

フラれかたの5段階カテゴリー。これが、あなたとして正しい判断をする、そして正しい改善と再攻勢に取り掛かる、その一助になることを祈ります。


書いているうちに、朝になってしまった。暗い風鳴りはとうに止んでいる。窓から顔を出して見上げてみれば、そこは晴れやかな空だった。

高く高く磨かれて、目に痛いほど鮮やかな青・・・。

台風一過というやつか。






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