恋愛偏差値アップのコラム









「口説く」ための三つの方法







僕の知っている女で、すごくかわいい女がいる。彼女は近所にあるコンビニ、そこで働く男の店員さんを気に入っていて、「あそこの店員さんすごく感じがいいんだよ」と僕に力説していた。僕は彼女と一緒に、そのコンビニに行ってみた。確かにその店員さんは感じのいい人だった。店員さんは会計を済ませる中で、「お疲れ様!」とか「いってらっしゃい!」とか、そういう一言を気持ちよく付け加えていた。寒波のきていた冬の夜だったから、店員さんのそういう一言は何よりも暖かいように感じた。

その店員さんは、確かに気持ちのいい人だった。しかし僕はそれよりも、その女をいいオンナだなあと思った。彼女はその店員さんの目を真っ直ぐに見て、「こんにちは〜」などと言いながら、まぁ何ともかわいい笑顔を向けるのだ。それは、店員さんだって嬉しいだろう。おそらくはその店員さんも、いくらかは彼女のような存在を支えにして、そのような気分のいい人間でありえているに違いないのだ。

店を出てから僕は、確かに感じのいい店員さんだねと言いながら、ちょいとふてくされてみせた。我ながら子供じみているのだが、彼女がそのような笑顔を店員さんにまで振りまいているのが、なんだか妬ける気分だったのだ。僕は、多分お前の笑顔がかわいいから、店員さんもやる気でてるんだよ、といったようなことを付け加えた。そしてお前の周りにいるオトコはみんなそうだよ、俺だってそうだけど、といささか不機嫌に付け加えもした。彼女は一瞬きょとんとしたが、口説かれたということを理解すると、臆面も無く満悦になった。その満悦の顔もかわいらしいから、僕としては顔が思わずにやけてしまう自分が無性に悔しかったのだけど・・・。

僕たちは好きな人ができたら、その人と仲良くなろうとする。そしてなんだかんだで、デートに誘おうとする。それは誰だってそうだろう。

ところがだ。僕が最近気づいたことに、デートに誘っておきながら、その中で「口説く」ということをしない人がいるようなのだ。口説く方法がわからないとかそういう次元にとどまらず、口説くという概念そのものについて知らない人がいるように思える。

デートしながら、口説かないというのはどうだろう?僕としては、それはデートの意味そのものを、根本的に危うくするもののような気がしてしまうけど。

今回は、その「口説く」ということについて考えたいと思う。

まず原点に立って考えてみよう。あなたが、想いの彼を(あるいは彼女を)デートに誘い出したとする。この時点でのお互いの心境はどのようなものだろうか。これは冷静に考えさえすれば、次のようなものだと明快に了解されるだろう。

・あなたは、彼のことが好き。
・彼は、あなたのことをそこまで好きじゃない。でも、ちょっとワクワクしている。

これは当たり前のことだ。例えば僕があなたをデートに誘い出したとする。それをあなたが受けてくれたら、とりあえずあなたは僕のことがキライではないということになる。でもその心中は、「うーん、デートすることにはなったけど、実際どんな人なんだろうなぁ?まあ、いちおうデートらしい格好はしていくけど」ぐらいのもんじゃないだろうか。

デートに誘い出した時点では、まずお互いの気持ちには温度差がある。そしてその温度を近づけるために、要するに自分のことをもっと好きになってもらうために、「口説く」という行動がある。これは当たり前のことだが、案外その当たり前のことも知らない人がいるように僕は思う。なぜだろうか、デートさえすれば気持ちが近づくと思っている人がいるようなのだ。それはまあ、少しは近づくものだろうが、そんな自然発生的なものに任せるというのは、よっぽど自分に自信があるか、あるいは横着なのではないだろうか。僕なんかの場合は、デートをしただけで相手が僕のことを気に入ってくれることはまずないので、頑張って口説かなくてはならない。大半の人は、同じように口説くという部分が必要になると思う。(男女いずれであってもだ)

さて、そのようなわけで「相手の気持ちをこちらに近づける」ために「口説く」という行動があるわけだが、実際にどのようにして口説いていけばいいだろうか?このことについて考えていこう。

まず「口説く」ということがよく分かっていない人の典型的な例として、「口説く」ということと「告白する」ということの区別がついていない人がいる。こういう人のありがちなケースはこうだ。「三回デートしましたが、いまいち進展しません。彼はどういうつもりなのでしょう、その気はないのでしょうか。このままじゃダメなので、次回は思い切って告白してみようと思います」→「告白したらフラれました。『そういう対象にはやっぱりならならなぁ』と言われました。ショックです」。

このようなケースはよくある話だが、これも改めて冷静に考えてみれば、すでにそのような結果は本人としても予測可能だったという話だ。なぜならば、既にデートの最中に「進展しない」「その気がなさそう」という態度が本人からして見て取られていたわけだから。だから、本来ならばそれを「口説く」ことによって変化させていく必要があったということになる。しかしそのことを知らない人は、「口説く」ことを試みずにいきなり「付き合ってください」という告白にいってしまうわけだ。そしたら温度差はそのままだから、やはりそのままの結果が返ってくる。このような場合も、やはり「口説く」ということを理解していないと言わざるを得ない。

「告白」は「口説く」ということとは別のものだ。敢えてここで冷たく言うなら、「告白」に魔力があるわけじゃないのだから、告白したからといって状況が急転するわけじゃない。告白はただ、付き合うか否か、相手にその決断を迫るということにしかならない。だから、その時点でNGが予測されているときは告白したら損だ。自分からわざわざ明確なNG回答を引き出すことになる。

極端な言い方になるけど、NGが予測されているならむしろ「好きです」よりは「抱いて」のほうがまだ有効かもしれない。「好きじゃなくてもいいから抱いて」と言われたりしたら、オトコとしては気持ちがある程度揺らがざるを得ないのだから。まあこの方法は禁じ手みたいなもんだから、後々のトラブルやら惨めさやらを覚悟してなきゃいけないわけだけど。

禁じ手を使うかどうかは各人の個性によるとして、とにかく「口説く」ということの本質は、そのようにして「相手の気持ちをぐらつかせる」ことにある。相手の気持ちは自分の気持ちに比べて温度差があるわけだから、まず第一にその温度を変化させなくちゃいけないわけだ。そこで相手の気持ちをぐらつかせる、そのための言葉や態度が「口説く」だということになる。

さてそこで、じゃあどうやったら相手をぐらつかせることができるかという問題になる。僕はそれについて、三つの方法を示したい。まずその一つ目として、「相手のステキなところを褒めろ」という方法がある。

あなたは相手のことが好きなわけだ。それだけに相手のことをよく見ているはずだし、その相手を好きになるだけの魅力を発見しているはずだ。まずはその点について、たっぷり褒めるのがいい。

オトコがオンナを口説くときなら、例えばこうだろう。

「笑ったときのその目元の崩れ方が、かなりイイんだよ」
「足がきれい。お前より網タイツの似合うオンナを俺は他に知らない」
「心根の柔らかいところ、なんかオーラで出てる。なんかほっとけなくなるね」
「音楽聴いてるとき、すごく入り込んで聴いてるのがわかる。そういう感性ってイイと思う。うらやましい、誰でも持ってるもんじゃないから」
「アタマいいし、気持ちが素直だから、話してて気持ちがいい。お前と話すようになって、話すってことがこんなに気持ちいいんだって初めて知った」

オンナがオトコを口説くときは、こんな感じかな。

「なんかその指、見ちゃうの。なんでだろ」
「照れて笑うときかわいい。ちょっとヤバいぐらい」
「背筋が伸びてるから、後姿がカッコイイ」
「清潔なシーツには誰だって包み込まれたくなるって誰かがエッセイで言ってたけど、そういう感じあるかも」
「不思議な考え方だけど、その声で言われるとその気になっちゃうの」

まあこのあたりは、それぞれのオリジナリティが楽しいところだ。恋愛を上手くやろうというときに一番に考えるべきは、結局このあたりのことなのかもしれない。

ただし、この「相手のステキなところを褒めろ」という方法については、当たり前の前提がある。それは「相手のことを理解した上で」という前提だ。そりゃあそうだろう、「超ツマンナイ映画だった、眠いったらありゃしない」と思っているところに「いやー、すごく感動してたよね!うん、いいハートだよ!」なんて言われたら、誰だって興ざめする。相手の気持ちとか心の動きとか、そういうのをじっくりと観察して把握した上で、自分はあなたのことをこれだけ理解していますよという意味を込めて言わなくちゃならない。もし相手のことが理解できませんというのであればそれは実力不足というやつなので、そこは経験を積むなり勉強するなり人の話を聞くなりして補っていくしかない。

次に、二つ目の方法。これは、「自分のいいところを見せろ」という方法だ。

誰だって好きな人とのデートであれば、いいところを見せようとする。これは言わずもがなのことかもしれない。しかし改めて考えてみて、果たしてあなたは「自分のいいところ」が分かっているだろうか。これは、「恋愛の知性 恋愛は個人のもの」でも触れたところだが、まず自分のいいところはどこなのかについて考えなくちゃいけないし、それをどうやって相手に見せていけるかということを考えていかなくちゃいけないことになる。その意味で、これはやはり有効な方法だ。

例えば、こうやって考えよう。映画館でデートするとする。映画館でデートは定番だから、デートコースとしては問題ないだろうと誰しも思いがちなところだ。しかし、それは「自分のいいところを見せろ」という口説きの方法に合致するものだろうか?

映画館デートといっても色々ある。例えば、

「『東京タワー』、観に行こう。たしか、黒木瞳が出てるやつ」

という場合もあれば、

「『トゥーブラザーズ』、観に行こう。虎の兄弟が人の手で離れ離れになって、後に再会するドラマなんだけど。このジャン・ジャック・アノー監督、『小熊物語』観てからあたしファンなんだ。一見するとほのぼの映画なのに、実はすごく深い物語を作るんだよ。この監督は本当に芸術家だと思うんだ。ね、行こう」

という場合もある。「自分のいいところを見せる」という点では、後者はいいにして前者はどうだろう。案外、映画館デートは愚策だったりするんじゃないだろうか。

デートの目的は基本的に楽しむことではあるけど、やはりそこで自分のいいところを見せなくちゃ損だ。だからこのあたり、自分でデートコースを設定するなら冷静に考えなくちゃいけない。自分のいいところはどこだろう。例えば、格好つけてフレンチレストランに入ったとして、ワインの種類はわかるだろうか。根本的にナイフとフォークを使うのが苦手だったりしないだろうか。実は安くておいしいオムライスの店のほうが詳しかったりしないだろうか。料理に自信があれば、お弁当を作って公園デートというのもいいんじゃないだろうか。英語を話せるなら表参道より六本木のほうがよかったりするんじゃないだろうか。静かで話しやすいコーヒーショップのマスターと知り合いだったりしないだろうか。

口説くという観点からデートを考えるなら、そのコース選びは派手さとか高級感とかではなく「自分のいいところを見せる機会があるか」ということが大事になってくる。自分のいいところを見せるためには、やはり自分の得意分野に持ち込んだほうが得だ。自分の得意分野で、さらりといいところを見せてみる。そこに意外性なんかが少しでも加われば、彼をグラッとさせられるだろう。そしてついでに「また行こうね、絶対」なんて付け足してしまう。それが、二つ目の口説く方法だ。

最後、三つ目。「恋人になったときの予告編を見せろ」という方法。

デートの最中は、単純に共有時間を楽しんでいるようでいて、心のどこかでは無意識に「このコは彼女にするとしてどうだろうなぁ」といったようなことを常に考えているものだ。口説くというのは、その彼の気持ちをよりこちら側に引き寄せる、要するに「付き合いたくなっちゃったな」と思わせる、そのための行動だ。

恋人を選ぶとき、よほど切羽詰っている人でなければその選択は慎重になる。それは、あまり説明する必要も無いだろう。付き合い出せば一番近しい人になるわけだし、それなりのしがらみも生む。実際に付き合いだしてどのような感じになるかは案外分からないものだから、そのあたりも不安要素になってくる。メールはどれぐらい打つコなんだろうとか、デートはどれぐらいの頻度でするコなんだろうとか、エッチは好きなコなんだろうかとか。

だからデートするときは、実際に恋人になったらこんな感じになるだろうなと思わせる、そしてそれをステキだなと思わせる予告編のようなものを見せていかなくちゃいけない。それでこそ、「どうなんだろうなぁ」と逡巡している彼をグラッとさせることができる。

さて、「恋人になったときの予告編を見せる」として、具体的にはどのようにしていけばいいか。オンナがオトコを口説くとして、端的には次のようなものがあるだろう。

・手をつないだときに、彼の手の甲を指先で優しく撫でる。(セックスの感触の予告)
・「ごちそうさま、カラオケはわたしがおごるね」(金銭感覚の予告)
・本屋に寄って文庫本を買う。あるいはユニクロによって靴下を買う。(ライフスタイルの予告)
・ドトールで彼の好きな音楽の話を一時間聞く。(日常の予告)
・「泳げないけど、海を見るのが好きなの」(イベントの予告)
・彼の目を真っ直ぐ見つめる。(気持ちの向け方の予告)
・「空がきれいだから、このまま少し歩こ!」(感性の予告)
・過去の恋愛とセックスの話をする。(恋愛全体についての予告)

このような言葉と行動によって、彼は実際にあなたと付き合ったときに過ごす時間がどのようなものになるかを想像できるようになる。彼がその中で「このコ、かわいいとこあるなぁ。一緒にいてけっこうイイかもしれない」と思ったりしたら進展だ。彼の気持ちは具体的にあなたのほうに近づいたことになる。

デートするときは、恋人になったときの予告編を見せること。それは「恋人気取りを見せてみる」と言い換えてもいいかもしれない。人は付き合い始めるから恋人らしくなるのじゃなくて、恋人らしくなるから付き合おうと思い始めるのだ。この点をよくよく理解して、デートを全体的に恋人ムードに持ち込んでいければベストだろう。


以上、「口説く」ということについて三つの方法を示してみた。これに基づいて、架空の物語を作ったらこんな感じのものがあり得るだろうか。こんなのは各人の個性次第だから、あくまで参考としてだけど。

―――「あのマスター、コーヒー豆を毎朝ちゃんと自分で焙煎してるんだって。毎朝、ホントに毎朝らしいよ。カッコイイよね・・・。あと今流れてるこの曲も、あたしわからないけどすごく古いレゲエのレコードなんだって。あたしいつもこの店に来てるから、マスターと仲良くなっちゃった」。彼女は終始はにかんだ表情のままそう言った。流れている曲は、どこかで聴いたことのある曲だった。レコードは時々爆ぜる音を混ぜ込みながら、生々しく録音された音楽を鳴らしていた。「これ、多分ボブマーリィだよ。曲名は忘れたけど」と僕は言った。彼女は「えー、なんでそういうのわかるの。すごいなぁ、あいかわらず」と言って、音が鳴らない小さな拍手をした。僕は照れくさくて、人差し指で顎を掻いた。それは彼女に言われるまで僕自身気がつかなかった、僕の癖だった。僕が顎を掻きだしたのを見て、彼女は「あ、また掻いてる」と楽しそうに言った。「あたし、その癖好きだよ。なんか、おちゃめでかわいい。指がきれいだしね」。彼女はそう言って僕に向けて手を伸ばしてきて、ぼんやりと顎を掻き続けている僕の人差し指を包み込むようにして掴んだ。彼女はそれを少し強引に自分の胸元に引き寄せた。そして両手で僕の手の平をもてあそび、その形をしげしげと観察した。「手、いい形だよね。手がきれいなのはトクだよ、うん」。彼女はそう独り言のようにしみじみと言った。彼女は自分の人差し指で僕の人差し指の上をなぞるようにして撫でた。彼女の人差し指の先端は、僕の人差し指の上をゆっくりと往復した。僕はくすぐったかったが、彼女の指の腹の感触をこっそり楽しんでもいた。彼女の体温は高かった。彼女は僕の指先をいじりながら、ちらりと上目遣いで僕の方を見た。「ね、またしょうもない話していい?ちょっと、相談したいことがあるんだけど。ホントまたしょうもない話なんだけど」。彼女はそう言って、またいつものはにかんだ表情を見せた。僕は、「それはいいけど、手、そろそろ返せよ」と冗談めかして言った。彼女は小さく首を横に振って、「もう少し。これ落ち着くもん」と言った。

もし僕が実際にこういうふうにされたら、「んだよこのオンナ、思ったより、ちょっとかわいいじゃないかよ」と思ってしまうだろう。そしてもし彼女から付き合ってくださいと申し出られたりしたら、「いいかも。ちょっとまた会いたいかも。いや、かなり会いたいかも」と思ってしまうに違いない。それは僕が彼女に口説かれたということだ。

そんなわけで、口説くための三つの方法と、それに基づいた架空の物語の端緒を示してみた。どうだろう、物語の中で実際に示されている三つの方法を見て取られただろうか。この方法は三つが三つとも個性によって有り様が変化してしまうものだが、その本質は基本的に変わらない。「相手のステキなところを褒めろ」「自分のいいところを見せろ」「恋人になったときの予告編を見せろ」、これを念頭に入れておけば、いざ彼とデートするときにどうしたものかと考えるとき役に立つと思う。

なぜか僕たちは好きな人をデートに誘ったとき、映画館とか遊園地とか水族館とか、あるいはカラオケとかボーリングとかビリヤードとか、安易にそういう定番どころに行ってしまいそうになる。そして一通り遊んだ後は食事などしながら、今日見たものについてあれこれとお話して、ただ楽しく過ごしがちだ。そして、そろそろ帰らなくちゃねという時間になってから、ふと「口説けてない」ということに気づく。そして別れ際に告白するも、「うーん、やっぱりそういう対象には見えないなぁ」という回答を喰らう。これは、あまり上手くない。デートする目的は、半分は楽しく過ごすことだけど、もう半分は口説くことだ。

「口説く」ということを忘れないようにしよう。








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