明るい人、暗い人
やっぱり、明るいのが、いい。
一緒にいて、はしゃげる友人、安らぐ恋人、癒される人間関係、がいい。それは、だれだってそうだろう。
それならやっぱり、明るいほうが、いい。
ご機嫌ナナメな人は、「明るい」ということを、とても侮蔑的に見る。バカだとか、何も考えていないとか。確かに、そういう人もいる。けれど、それは、明るいのではなくて、単におバカなだけ。明るいということとは別問題だ。
そして、自分が暗いのは、真実を追究する求道者だからだとか、頭が良すぎるからとか、悲惨な境遇と戦ってきたから、と、賛美的に見る。確かに、言っていることは、事実無根ではない。実際に、何かを求めすぎるあまりに、暗くなっていくという人もいる。かなりつらい境遇にいる人もいる。でも、だからといって、暗いのがすばらしい、明るい奴はバカだ、とするのは話がおかしい。
明るくなれないのは、とても気の毒なこと。中には、暗いということを、責める人もいるけど、それはいきすぎだ。暗いのは、咎ではない。まあ、責めるのも、その人なりの励ましかたかもしれないけどね。
暗い人を責めるのは、ちょっとひどい。
と同時に、暗い人は、暗いままで愛されようとしてはいけない。だって、普通に明るく生きている人は、明るい人と恋人同士、友達同士になりたいと、自然に思うから。みんな、どうしようもなく、明るい人を好きになってしまう。あなただって、人の不幸を笑う人とは、結婚したくないはずだ。逆に、止めておいた自分の自転車が転倒していても、「私の愛車がっ」と笑っている人と、結婚したいはずだ。いくらその人が切実でも、あなたがそうであるように、暗い人は愛しにくい。
街行くゴキゲンなカップルを見て、「いいよな、何の悩みも障害もなく、たのしーくやってられる奴らは」と、どすぐろく吐き捨ててしまったりする。こんどは逆に、暗い人が、明るい人を、責める番になる。これも、ちょっとひどい。
明るく生きている人が、暗いあなたを無視することを、責めてはいけない。これって、とても難しいけどね。
ついでに言っておくと、暗い人の中に、「責める人」は、すごく多い。あなたは、どうかな。
明るい人は、明るくステキな人と恋人同士になりたいと、切に願っている。慈愛を世の中に振りまく、献身的なマリア様にはなれない。そんな普通の人を、責めてはいけない。そこまであなたは偉いわけではない。なにより、自分のために、責めてはいけない。そこで責めたくなる気持ちを抑えることこそ、あなたの中の悪魔をとっちめる最高の方法なのだから。
中には優しい人がいて、自分は明るく生きているけど、暗く落ち込んでいる人にすごく親身に同情してくれる人がいる。この人は、賞賛すべき人だ。自分がご機嫌ナナメの時は、こういう人に惚れてしまうね。優しさにうたれてしまう。で、ついつい、相手に対する賞賛も感謝も忘れて、手に入れることに一心になり、とんでもないことになる。
親身になってくれる人は、やさしい。すばらしい。そうでない人が、普通の人。責めてはいけない。それが明るい人間への第一歩。
中には、暗い人でも愛せる、という人がいるかもしれない。でも、たいていの場合、その相手は暗いのではなくて、穏やかだったり、繊細だったり、自己主張しない人だったりする。それは、暗いということではない。このへんは、明るいとか暗いとか、言葉の感覚になってしまって、難しい。
暗い、といって責められたことの多い人は、明るい奴らはイヤな奴らだ、と単純に思ってしまっていることがある。でも、それは彼らが明るいのではなく、無神経で、幼稚で、残酷だったのであって、明るいということとは、別の次元になる。明るくてもイヤな奴はいる。明るければすべていいというわけでは、もちろんない。「明るい」と「無神経」「幼稚」はよく混同されるので注意が必要だ。
それらの思い込みを払拭して、やはり、明るいのがいい、と思わないだろうか。きっと、ここまで読んでくれた人なら、そう思ってくれるはずだ。そう思ってくれたなら、あなたには明るくなれる素質が十分にある。
自分の知っている明るい人を、思い浮かべると、なぜあんなに明るいのか、という気がしてくる。
実のところ、明るいことに、理由なんかない。
きっかけ、というものは、あるらしい。誰かと付き合いだして、彼女変わったよね、とか、バイト先でしごかれて、一皮向けたよね、とか。でも、変わった後の彼女や、一皮向けた彼に、「なぜ明るいのですか」と問いただしても、答えは返ってこないだろう。
明るいことに、理由なんかない。
私には、そしてあなたには、今、というものがある。今の状態、現在の状況、というものがある。これは、今どうリキんでも、どうにもならない。気合を入れても、とりあえずはかわらない。そして、その「今」を、ダメだダメだダメだ、と思うと、暗くなる。イイよイイよとてもイイよ、と思うと明るくなる。ただそれだけだ。
近所に安いラーメン屋がある。私はおいしいと思うのだが、不満を言う人もいる。
私がそのラーメンを、イイよと思うのに、理由なんかない。そう思うだけだ。もちろん、もっとおいしいラーメン屋もあるのは知っているし、これが安物だってことも感じる。でも、おいしいんだから、しょうがない。
きっと、ダメだと言う人は、味覚が非常に発達しているのだろう。だから、私がただのバカに見えるのだろう。けど、私の飼っていた犬は、私の一万倍の嗅覚を持っていたが、「このドッグフードの香りはソソらねえぜ」と言ったことがなかった。いつもおいしそうだった。
明るいのがいい。明るいのに、理由なんかない。
ついでに言っておくと、誰でも、明るくなれると思うよ。その気があれば。
[明るい人、暗い人/了]