緊急コラム・狂牛病
狂牛病キャリアのミルクを人が飲んだり、肉を食べたりすれば、狂牛病は感染する。感染したらおそらく死亡する。
関東付近の人は、食品の出どころに気をつけるべきだし、国と流通はちゃんとした対応措置をとらないと深刻にまずい。薬害エイズの厚生省とまったくおなじことになる。止めるなら今しかない。
すでに、ヨーロッパから、調査をしましょうという勧告と、調査のための応援の申し出があったが、農水省はそれを断った。ことを荒立てたくないから、という理由でだ。農水省は、ごまかそうとしている。「牛乳や食肉は無害」と強く主張しているが、まったくそんなことはない。それどころか、科学的見地から、極めて危険性が高いと断言できる。我々は我々で身を守るしかない。
狂牛病は、今までの医学の歴史になかった、まったく新しいタイプの病気である。病気には、感染するものと感染しないものがある。エイズはうつるが糖尿病はうつらない。糖尿病は膵臓の器官疾患だからだ。ここでは、器官の疾患などはおいといて、もう一方の感染症について話して、それから狂牛病について述べよう。
感染というと、ウイルスとか細菌とか、そういう言葉を思い浮かべる。寄生虫を思い浮かべた人もいるかもしれない。
意外に知られていないが、ウイルスと細菌はまったく別物である。大きさも生命機構も違う。
まずは大きさの話をしよう。ウイルスをケシゴムの大きさとすれば、細菌は机ぐらいの大きさである。ついでに、理科の実験で見た動物細胞は、8畳間部屋ぐらいの大きさになる。さらに、ミジンコにもなれば、都庁ぐらいの大きさになるだろうか。実際の大きさにすると、ウイルスが50nm、細菌が3μmぐらいだから、1ミリ四方の粒を1000個に砕いたのが細菌の大きさ、その中に何百個と入るのがウイルスの大きさである。細菌は、なんとか顕微鏡で見られるが、ウイルスは見られない。光の波長が2μmなので、それより小さいものは、どれだけ眼のいい人でも見ることは出来ない。光の機能として不可能なのだ。ウイルスを見るためには電子顕微鏡が必要になる。それぐらい小さいのだ。
つぎに生きるシステムだが、細胞は、普通、ブドウ糖をとり入れて燃焼させている。大半のものは、ちゃんと酸素を使って生きている。中には光合成をするものもいるし、中には硫化水素を食べていきるとんでもないやつらもいるが。硫化水素を使う細菌は、地球がまだ煮えたぎっていたころ、火山性ガスをエネルギー源にしていたからだろうとされている。いっぽうウイルスというのは、モノを食べていない。食べるといっても、細菌や細胞に、ルージュを塗るべき唇がついていようはずもないが、ウイルスに至っては、栄養をとりこんで燃やす=呼吸そのものをしていないのである。それゆえ、ウイルスは生物ではなくただの分子だ、というふうにも言われる。生き物なのかどうなのかあやしいやつらなのである。
ウイルスは、メシも食わずに、ふらふらと流れて細菌にとりつくと、最近内に自分の遺伝子、DNAをぶちゅーっと射ち込む。すると、細菌内のタンパク質が、その遺伝子を複製し始める。ものの一時間もすると、細菌の中に数百個のウイルスがひしめきあい、ついに膜がやぶけると、その増殖したウイルスが巣立って行く。こうやって、ウイルスはただ数を増やしていく。それだけがウイルスの生活である。
細菌の増殖方法は、ちゃんと自分の体を2つにわけて分裂するので、ウイルスにくらべればホッとする。ところが、こいつらも、勝手に体内の栄養を使うし、毒素をまいたりするので、我々にとっては迷惑な話で、Bリンパ球でぶっつぶしてやる、というところである。食中毒などは、有名なブドウ球菌やサルモネラ菌などの細菌が犯人で、風邪やエイズはウイルスが犯人だ。
これら、細菌やウイルスをヨソからもらって、自分の体内で増えてしまうという話は、わりとよくわかる。ところが、狂牛病の病原体は、細菌でもウイルスでもないのだ。タンパク質、ウイルスよりさらに小さく(シャーペンのお尻のケシゴムぐらい)、さらに確実に生き物ではない「分子」が、感染症を生むのである。
その作用は、まったくわかっていない。大学に、外国の専門家がきて、「まったくわからない」とわざわざ述べて帰ったぐらいだ。最先端の研究者たちも肝を抜かれる、あたらしい病原体なのである。
今わかっていることはこうである。その病原性タンパク質は、プリオンタンパクという種類のものである。正常なプリオンタンパクは、細胞膜の表面に存在しているものだが、病原体である異常プリオンタンパクというのがそこに付着すると、正常であったプリオンタンパク質が、異常タンパク質に変質する。またそれが隣の正常プリオンを異化し、異常プリオンは増殖する。簡単に言うと、オセロのように、となりが黒くなったら、またそのとなりが黒くなって・・・・・と進行していくのだ。
ふつう、化学反応というのは、
A+B → C+D
というふうに書かれる。ところが、この異常プリオンは、
A+B → A+A
と進んでいることになる。これはおかしいのである。Aが化学反応したくせに、変化していないからヘンなのである。化学的にあってはならないことである。酵素のように、反応の手助けをするだけで、自分は変化しないものもあるが、プリオンは手助けなどではなく、自分が化学変化の主体であるにもかかわらず、なぜか反応後も同じ姿で、しかも一方のプリオンも自分と同系にしてしまうのだ。
極端に言ってしまえば、こうだ。鶏肉の上に豚肉を重ねておいて、翌朝見たら、両方とも豚肉になっていたら、恐ろしいだろう。なんとなく化学的にありえなさそうだから、呼ぶなら学者でなく祈祷師という感じである。しかしこのプリオンタンパクにおいては、それが本当に起こってしまう。そして異常化したプリオンは、アミロイドというろくでもない物質(アルツハイマーを起こす要因とにらまれている)に変化し、神経細胞を破壊してしまう。脳神経がスポンジになるというわけだ。
しかも、まださらに恐ろしいことがある。
タンパク質は、普通、胃に入ると胃酸に溶かされ、アミノ酸となって胃壁に吸収される。その後、再びタンパク質を形成して肉体の構成に用いられたり、一部はピルビン酸やアセチルCoAとなって(わかる必要ナシ)、エネルギー源として燃焼される。
だから普通、へんちくりんなタンパク質でも、いったんアミノ酸に分解されてから吸収されるので、影響はないと考えてしまう。むしろ、そのほうが常識的な発想、科学的な発想なのだ。しかし、この異常プリオンは、どういう方法かわからないが、吸収のメカニズムをすり抜けて、タンパク質のまま体内にこっそり入ってしまう。私は、タンパク質がそのまま血液中に入るなんてバカなことがあるか、と思って、大学の生化学の教授に尋ねにいったのだ。
「タンパク質がそのまま吸収されるなんてありえますか」
「普通ありえないんだけどね、このプリオンってやつは、ナゾなんだよ。誰にもわからない」
タンパク質が胃壁の吸収孔を抜けるというのは、私が風呂場の排水溝をくぐりぬけるのに等しい。いくら体が柔らかくても不可能だ。それぐらい、タンパク質とアミノ酸は大きさが違う。小さいタンパク質でも、アミノ酸300基ぐらいからできているのだ。
しかし、プリオンタンパクはデビットカッパーフィールドのように、いつのまにか体内に入ってしまう。しかも、脳にはいる血管には、脳関とよばれる関所があって、不必要な物質は通さないようにかなり厳重なチェックが行われているのだが、それもいつのまにか通りぬけている。そして脳みそにとりつき、よいプリオンも朱に染めて、脳みそをスポンジにする。
農水省が、牛乳をのんだり肉を食べたりしても、まぁ大丈夫でっしゃろ、と思っているのは、タンパク質がいったんアミノ酸に分解されることを無邪気に信じているからである。もう今は事実を知っているだろうが、初めて狂牛病の発病が出たと聞いたときは、まあ焼いて食べればいいでしょう、ぐらいにしか思わなくても当たり前かもしれない。
しかしこの病気に関しては、従来の感染症概念が通用しないのだ。
焼いて食べれば細菌・ウイルスは死ぬから大丈夫→タンパク質は死なない。そもそも生きてないし。
いったんアミノ酸になるから大丈夫→なんでか吸収壁をスリ抜けてきます。
脳関があるから脳にタンパク質がいくことはない→なんでかソレもサクッと通りぬけてます。
抗生物質を投与すれば感染症はたいてい治る→タンパク質は殺せません。
というわけで、狂牛病は未知の、いわば21世紀の病気なのである。農水省の無思慮によって殺されないよう、我々は自衛しよう。
[緊急コラム・狂牛病/了]