第三講 ポジティブシンキング /Quali,恋愛レクチャー集
問1.ポジティブとネガティブ
ここに1個のリンゴがあります。あなたはこれに触れることができます。このリンゴが何個になれば、あなたはそれに触れることができなくなりますか。答えなさい。
○解答
マイナス1個のリンゴ。
■解説
我々は数学を与えられ、マイナスの概念を持ちますが、マイナスのものはあくまで概念であり、実在はしていません。
問2.ポジティブとネガティブ2
「a positive denial」を日本語に訳しなさい。denialは「拒否」です。
×誤答例
・前向きな拒否
○正答例
・きっぱりとした拒否
■解説
「ポジティブ」は「前向き」ではありません。「実在して、動かしがたい手応えのある」という意味です。一方「ネガティブ」は「見当たらない」の意味です。「negative contact」は「後ろ向きな接触」ではなく、「視認できない」の意味になります。
1個のリンゴはポジティブですが、−1個のリンゴはネガティブです。
1個のリンゴがあったとき、その事実は、実在して動かしがたい手応えがあります。
不思議な話が続きますが、必要な話なのでお楽しみください。
問3.ポジティブとネガティブ3
Aさんの人生が15点だったとします。B君の人生が60点だったとします。共に正の数値を持っていますが、これをマイナスにするにはどうすればよいですか。答えなさい。
×誤答例
・暗い気持ちにさせる。
○正答例
・Aさんの人生からB君の人生を引き算する。「Aさんの人生はB君−45点」と捉える。
■解説
どこからともなくマイナスが出現しました。
このやりかたはよくあります。「○○さんはあんなに頑張っているのに、あなたは」という説教などがそれです。この説教は、理屈では正しく聞こえるのに、肝心なものが「見当たらない」。
それは肝心なものは「あなた」であって、○○さんは関係ないからです。
問4.ポジティブとネガティブ4
Aさんの人生とB君の人生を引き算するのは不当です。なぜですか。答えなさい。
×誤答例
・人の人生は比べられるものではないから。
○正答例
・Aさんの人生とB君の人生を、「足し算」はできないから。足し算のできないものは引き算もできない。
■解説
仮に、年収や地位などが足し算できても、肝心なAさんB君という人間が足せません。
なぜ足し算ができないのに引き算だけやりがちかというと、人間が優越感や劣等感に敏感だからです。その算術が間違っているとはうすうす分かっていても、架空で引き算をすると優越感や劣等感に浸ることができます。
問5.ポジティブシンキング
ポジティブシンキングとはどのような思考を指しますか。プラス(正)という語と、ポジティブの正しい意味を用いて説明しなさい。
×誤答例
・気持ちをプラスにする、前向きな思考。
○正答例
・実在、プラス(正)の値を思考に捉えるもの。
■解説
「プラス思考は、マイナス思考の反対」ではありません。プラス思考は実在する事実の思考ですが、マイナス思考は「見当たらない」、幻想のものです。これから説明します。
マイナス1個のリンゴには触れられないということを思い出してください。マイナス思考は実在しない思考です。マイナスは概念の作り出す幻想です。
問6.ポジティブシンキング2
「やる気が出ない」と感じました。これをポジティブシンキングに言い直しなさい。
×誤答例
・やる気が出ないときもある、しょうがないさ、明るくいこう。
○正答例
・やる気が潜在状態になっている。
■解説
「やる気が潜在状態になっている」というのは、ただの事実です。ですがポジティブです。
この潜在している「やる気」と、また思考法そのものに、実在の感触、「触れられる」感触があるのを確認してください。
問7.ポジティブシンキング3
「恋愛って面倒くさいし、けっきょく女は損をすると思う」。これをポジティブシンキングに直しなさい。
×誤答例
・恋愛には、その分の楽しさもあると思う。女が損をするとも決まっていないと思う。
○正答例
・「恋愛は心身に手ごわい。女性が男性にメリットを与えてしまうものだ」。
■解説
言っていることは同じです。前向きに言っているのでもありません。が、ポジティブです。ポジティブシンキングというのはあくまで、実在する事実を思考が捉えているということであり、事実を曲げて自己を鼓舞するものではありません。
重ねて説明します。「恋愛が面倒くさい」というのは、「気楽な状態」を前提し、引き算してマイナスを算出するからネガティブに感じられるものです。「女が損をする」というのも、「損をしないフラットな状態」を仮定して、引き算からマイナスを算出することで成り立ちます。
ですがその引き算は不当で、算出されたマイナスは幻想です。それで結果的に、「恋愛って面倒くさいし、けっきょく女は損をすると思う」という思考は、「見当たらない」「触れられない」というものになるのです。「恋愛は心身に手ごわい。女性が男性にメリットを与えてしまうものだ」という思考の「実在の手応え」と比較してみてください。
問8.ポジティブシンキング4
「時間が無いから会えないのよ、しょうがないじゃない」と、あなたはメールを送りそうになりました。思いとどまり、これをポジティブシンキングで書き直しなさい。
×誤答例
・「本当にごめんね。本当に時間が無いの」と書き直す。
○正答例
・「あなたに会うために、時間をもっと作らなきゃ」と書き直す。
■解説
しつこくなりますが、「あなたに会うために、時間をもっと作らなきゃ」というのは、ただの事実です。事実ですがポジティブです。
「時間が無いの」というのも、事実に聞こえます。けれど「見当たらない」と感じられるのです。その「見当たらない」が「ネガティブ」ですが、これはマイナスの数値を土台にしているからです。
つまり、本来時間はもっとあるべき、という前提がどこかにあって、現状はそこからマイナスされているように感じます。そのマイナスが幻想になります。
一方、時間の無い現状から見て、「時間をもっと作る」というイメージは、プラス(正)の方向です。プラス(正)のものは実在します。だから「手応えがある」のです。
問9.ポジティブシンキング5
「お金がない」と言って、彼が財布の百円玉を見せました。「コーヒーも飲めないね」。これをポジティブシンキングで言い直しなさい。
×誤答例
・「お金が無くたって、楽しくはできるよ」
○正答例
・「100円だけある。コーヒーを飲むには、この4倍は必要だ」
■解説
またもや、事実のとおりです。100円あるのは事実ですし、コーヒーを飲むには4倍要るのも事実です。
問9.ポジティブシンキング6
「お金がない」と言って、彼が財布の百円玉を見せました。「コーヒーも飲めないね」。これはネガティブシンキングですが、なぜ彼はネガティブになりましたか。説明しなさい。
×誤答例
・事実お金がなく、貧乏が情けなかったから。
○正答例
・「お金は本来これぐらいあるべき」という前提があり、そこからマイナスで捉えたから。
■解説
ぜひこの見方を正確にできるようになってください。事実は、100円があるということです。「一万円はあるべき」というのは、誰かのモットーかもしれませんが、事実ではありません。この事実ではないものを土台に、マイナス9900円と考えることで、実在でない、ネガティブの幻想が生まれます。
そのネガティブシンキングが悪というわけではないですが、少なくともポジティブシンキングではない、ということです。
さて、次の問題が解答できたら、かなりの理解度だといえます。
問10.ポジティブシンキング7
「ネガティブシンキングはよくないよ」。これをポジティブシンキングで言い直しなさい。
×誤答例
・「ポジティブシンキングのほうが前向きになれるよ」。
○正答例
・「ネガティブシンキングはあなたに幻想を与える思考法だ」。
■解説
混乱が手ごわい問題です。ネガティブシンキングを「よくない」と言い出したら、その言い方はネガティブシンキングのものです。
構造は変わりません。ポジティブシンキングのほうが良い、という前提がどこかにあって、ネガティブシンキングはそれよりマイナスだ、と捉えることで、ネガティブシンキングが発生します。ネガティブシンキングとポジティブシンキングを引き算することはできません。足し算できないのですから、引き算もできません。
問11.ポジティブシンキング8
次の全文のうち、ネガティブシンキングの部分に下線を引き、全てポジティブシンキングに言い換えなさい。
三十になる前に結婚しなきゃ、と思うのに、よい相手がいないから、焦るわ。でもこの焦りが無いようじゃダメだと思うの。だって追い詰められなきゃ人って結局がんばらないじゃない。もう恋愛で遊んでいる年齢じゃないしさ、そこのところ、だらしない人を見るといよいよムカついてくるのよね。まあ、そんな人のことわたし知らないけどさ。
○解答
三十になる前に結婚しなきゃ、と思うのに、よい相手がいないから、焦るわ。でもこの焦りが無いようじゃダメだと思うの。だって追い詰められなきゃ人って結局がんばらないじゃない。もう恋愛で遊んでいる年齢じゃないしさ、そこのところ、だらしない人を見るといよいよムカついてくるのよね。まあ、そんな人のことわたし知らないけどさ。
↓
二十代として誰かの妻になりたいわ。よい人との出会いはこれからなの。あとどれぐらいあるか、時間を実感しているわ。この実感こそ奮起の燃料になるものよ。これまでは恋愛を味わわせてもらったわ。これまではね。そのあたり、今も奔放な人を見ると、対極的な刺激を受けるわ。でもわたしはそういう人たちからは独立しているのよ。
■解説
言い換えられた文言に、マイナスの見方が無いことを確認してください。そして問題文では、思考とさえ呼んでよいのかどうか、うるさげな割に「見当たらない」感触であったものが、ポジティブシンキングに言い直されると、「実在して、動かしがたい手応えのある」思考になっているのを確認してください。
ポジティブシンキングとは、「前向き」ではありませんし、「明るく」「善」でもありません。「二十代のうちに結婚したい」ということが、そもそも前向きなのか、明るいのか、善なのかは、わかりません。たとえそれが不善だったとしても、それを曲げるのはポジティブシンキングではない。それはただの倫理思考です。
問12.まとめ
以下の空欄を埋め、選択肢は正しいものを選びなさい。
1個のリンゴには触れられるが、−1個のリンゴには触れられない。マイナスは( )しておらず、あくまで( )によって与えられた概念である。
マイナスは( )によって作り出される。その算術自体が不当であるから、得られるマイナス値も幻想になる。この幻想は「(1.暗い 2.見当たらない)」という感触を与える。それがネガティブの感触であり、一方ポジティブの感触は、「( )」という感触である。それはpositiveの原義である、「( )」に合致する。
ポジティブシンキングとは、思考から( )を排除し、実在の(1.事実 2.問題)を捉えた思考法である。決して妄想を掻きたてて自己を無理やり( )する思考法ではない。
人は自分の思考に( )ことが出来ると、気持ちが前向きになる。それがポジティブシンキングの効用であるが、これを元に誤解が起こる。それは、気持ちを前向きにして考えることがポジティブシンキングなのだ、という思い込みである。そうではなく、気持ちが勝手に前向きになるだけだ。たとえ気持ちを前向きにして考えたつもりでも、( )の概念が思考に入り込んでいれば、思考は実在でなく( )に依拠し、( )になる。
○解答
1個のリンゴには触れられるが、−1個のリンゴには触れられない。マイナスは(実在)しておらず、あくまで(数学)によって与えられた概念である。
マイナスは(引き算)によって作り出される。その算術自体が不当であるから、得られるマイナス値も幻想になる。この幻想は「(見当たらない)」という感触を与える。それがネガティブの感触であり、一方ポジティブの感触は、「(触れられる)」という感触である。それはpositiveの原義である、「(実在して、動かしがたい手応えのある)」に合致する。
ポジティブシンキングとは、思考から(マイナス)を排除し、実在の(事実)を捉えた思考法である。決して妄想を掻きたてて自己を無理やり(鼓舞)する思考法ではない。
人は自分の思考に(触れる)ことが出来ると、気持ちが前向きになる。それがポジティブシンキングの効用であるが、これを元に誤解が起こる。それは、気持ちを前向きにして考えることがポジティブシンキングなのだ、という思い込みである。そうではなく、気持ちが勝手に前向きになるだけだ。たとえ気持ちを前向きにして考えたつもりでも、(マイナス)の概念が思考に入り込んでいれば、思考は実在でなく(幻想)に依拠し、(ネガティブ)になる。
あとがき.
ポジティブシンキングとはどういう思考法か、正しく理解されましたか。
説明がややこしいのはやはり、どこまでも「ポジティブ=前向き」という誤解があるからです。これは違います。もしプラス(正)の値を「前向き」と言うなら、事実の全てはもう、前向きにしか存在しないと言えます。マイナス(負)というのは引き算からの「概念」でしかないのですから。
あなたの両手の指で、1から10まではカウントできるでしょう。ではその指で、マイナス1をカウントしてごらんなさい。不可能でしょう。マイナスは実在しないのです。カウントするためには、あなたにはマイナス1本の指なるものが必要です。
ちなみに、ポジティブシンキングを専門に謳う本などでも、その内容が、ポジティブシンキングを正しく捉えていないことはよくあります。中にはしっちゃかめっちゃかなものも。購読の際はご注意ください。
ポジティブシンキングは、正義ではありません。ネガティブシンキングだって、あえて幻想を土台にすることで、つまり概念的に考えることを許すことで、有為な発見が得られることもあるでしょう。全てのシーンをポジティブシンキングだけで押し通そうというのはさすがにゴリ押しが過ぎます。
が、ポジティブシンキングが「できない」というのは困りものなのです。それは、実在の事実に帰ってこられないということですから。こういう人とはついに誰も付き合いきれません。ポジティブシンキングは万能の正義ではないですが、しっかりできないと困るというものです。
ポジティブシンキングを厳密にやるのには、思考の訓練が必要です。どこにマイナスの概念、その幻想が隠れているかを見抜く訓練が必要になります。本稿はその訓練になりうるように作られています。どうぞご利用ください。ポジとネガは「反転」です。昼を見て、「夜ではない時間」と見ないように。偶数を「奇数でないもの」と見ないように。画用紙に線を引いて、「画用紙の白さが傷つけられた」と見ないように。ではお疲れ様でした。
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